ドレスデンについてちょっと調べてあらためて素敵だと思った

先日に続いて世界遺産関連の話題を。

世界遺産から削除された街「ドレスデン」

後日詳しく書くつもりですがこの秋にドイツ旅行をすることに決めまして、その行き先を決めるがてら、先日行った訪問世界遺産の整理をしていたところ、「ドレスデン・エルベ渓谷 」が、何年か前に世界遺産から除外されていることを思い出しました。私自身、このドレスデンには、2003年と2008年に訪れたことがあります。とても美しい街で、ドイツの中で一番好きな街の一つです。

さて、そのドレスデンが世界遺産から削除された原因は、渋滞緩和のため「ヴァルトシュレスヒェン橋」という4車線の橋をエルベ川に架けたことが理由。これが景観を損ねるということで、2006年にユネスコがもしこの橋を建設するなら世界遺産からは除外すると警告を出していました。

それを受けてのドレスデン市の対応ですが、警告直後に開かれた市議会では工事を中止し世界遺産を保持するよう議決したのですが、ザクセン州政府とドレスデン市長が、その1年前の2005年に行った橋建設に関する住民投票で建設賛成票が67.9%となった[1][2]ことを尊重し、建設に踏み切る姿勢を示したそうです。

その後、自然保護団体等からの反発、裁判等もあったのですが、結局、橋は建設されることになりました。もしも削除警告が住民投票よりも先に行われていたら、住民投票の結果が変わったかもしれないような気もしなくはないですが、いずれにしても、ドレスデンは、2009年にユネスコの警告通り世界遺産から除外されてしまいました。

世界遺産だったのは、旧市街ではなく実は「渓谷」

ところで、世界遺産登録名をよくみると「ドレスデン・エルベ渓谷 」となっています。

Elbe Valley

厳密には、「旧市街」が登録されたのではではありませんでした。なぜかというと、この街の旧市街エリアが残念ながら第二次世界大戦時の空襲でほぼ全壊してしまったからです。

現在の旧市街は戦後に再建したもの。クラシック好きにとってはお馴染みのゼンパーオーパーも復興したのは1980年代なので、戦後といってもかなり時が経っています。

さらに、ドレスデンのシンボルでもある聖母教会に至っては、再建されたのは2005年とさらに最近なのです。

Dresden, Germany

ドレスデン空襲

そんな美しいドレスデンを襲った空襲について、とても気になったのでちょっと調べてみました。

空襲が起こったのは、第二次世界大戦が集結に近づいていた1945年3月、ドイツ降伏の2ヶ月前。イギリス・アメリカ連合軍による空襲でした。

当時のドレスデンは、ところどころに美しいバロック形式の建築物のある、当時のヨーロッパでも特に名高い古都、芸術都市であり、かつドイツの軍事拠点や重工業といった産業のない街だったこともあり、ドイツ国民の中でも「最も安全な防空壕」として有名だったそうです。ということで、多くのドレスデン市民は、まさか自分たちの街が空襲にあうことはないだろうと考えていました。さらに、こうした安全な街ということで名高かったせいか、東側から攻めてくるソ連軍から逃げるために、終戦間近のこの時期に非常に多くの難民がこの街に向かっていたそうです[3]。

軍事拠点でないかつ非常に歴史ある美しい街並みにも関わらず、さらに、もうすでにナチスは弱体化しており、ほぼこの戦争は終結を迎えていたはずにも関わらず、それらを容赦なく破壊したことは、当時のヨーロッパの文化人や知識層の怒りを買いました。そして、空襲を行ったイギリスの国民も、この国の方針に非常に疑問を感じたとのことです。

なお、この空襲の目的は、戦後、仮にこのエリアをソ連が占領してしまった場合でも、簡単に復興させないようにするためだった、といった説もあるようです。

いずれにしても、いくら戦争中だったとはいえ、許しがたい事実に変わりはありません。そして、日本人の我々にとっては他人事ではない気がしてきました。

世界遺産登録および削除はドレスデンに影響を与えた?

さて、以前の投稿でも少し触れましたが、世界遺産に選ばれているということは、その街のブランド力、知名度向上に大きく貢献しますから、観光業的には世界遺産から除外されるということは、一般的には何らかの影響を受けると推測されます。

しかし、ドレスデンといえば、そもそもドイツでも屈指の芸術都市、伝統ある街であり、世界中から多くの観光客が集まるドイツ有数の人気都市。したがって、世界遺産でなくても昔から知名度もブランド力も十分あるはず。

実際にはどうだったのでしょう。統計を調べてみました。以下のグラフは、ドレスデンの街に1泊以上した訪問者数の推移を表したものです。黄色がドイツ国内から、緑がドイツ以外の国からの訪問者を表しています。

出所:Development of Tourism in Dresden Annual Report 2012 より http://mediaserver.dresden.de/

この統計を見ると、ドレスデンの訪問者数は、2006年に一旦頭打ちするも、その後は再び年々増加し続け、2010年に再び過去のピークであった2006年の水準にまで回復、さらに翌年2011年も前年を上回ったという結果になっています。奇しくも2006年といえば登録削除の警告が出された年でしたので、その影響といえるのでしょうか。

さらに、2013年、2014年の推移を別の時点で作成されたレポートで確認 すると、次のようになっていました。

出所:Facts and Data about Tourism in Dresden March 2015 より http://mediaserver.dresden.de/

2010年以降からは、訪問者数、宿泊者数ともに毎年およそ6%から7%の伸び率ですので順調と言えるでしょう。

ところで、2007年から2009年のドレスデンの訪問者数および宿泊者数が一旦減少するのは、2007年からの3年間は固有もしくは大域的問わず何らかの要因によるものなのか、あるいは2006年が例年よりも特別に観光客が増加しただけだったのか。

2006年はまさにユネスコから削除警告が出された年、その削除がネガティブな印象を持たれた結果、2007年以降に観光客が減少したのかもしれませんし、あるいは削除警告が出てむしろ注目された結果、2006年が特別に観光客が増えたのかもしれません。

さらに別の可能性も考えられます。2007年、2008年というとサブプライムショック、リーマンショックという出来事がありました。従って、ドレスデンの観光業も、こうした世界的に景気が後退局面に入ったというマクロ的な影響を受けたのかもしれません。

このようにいろいろな要因が想像できますが、これだけの情報だけでは2006年とその後3年間の訪問者数の推移の原因を判断することはできません。しかし、例えば、訪問者数や宿泊者数の推移をいくつかのドイツの他の都市のものと比較することで、少なくとも、2006年とその数年間の現象がドレスデン固有だったかどうかは推測することができるのではないでしょうか。

ということで、ここでは例として、「ベルリン」、「ハンブルク」をピックアップして比較してみました。

データ出所は、上のドレスデン市の統計ではなくEurostatなので、多少数字に差異が見られますが、ドレスデンの総訪問者数(ドイツ国内、ドイツ国外からの合計値)と同じ傾向が確認できますので、これをもとに考察しても大丈夫でしょう。ちなみにこのKnoemaって、いろいろ使えそうだから覚えておこう。

さて、このグラフを見ると、ベルリンやハンブルクは2007年から2009年の総訪問者数が減少してはいません。いずれも2006年以降コンスタントにその数は増加しています。したがって、2007年から2009年にかけて総訪問数が減少したのは、少なくともサブプライムショックやリーマンショックの影響や、ドイツの都市全体の傾向からのものではないということです。

ただし、いずれにしても、2010年以降の観光客数は伸び続けているわけですから、今となっては世界遺産を削除された影響はないと断言してもよいでしょう。ドレスデンは世界遺産に選ばれていなくても文化的価値や資産が豊富なブランド力が高い街であることには間違いありません。

ドレスデン、ますます好きになってしまいました。

というわけで、ひょんなことからドレスデンについていろいろ調べてしまいましたが、その結果、第二次世界対戦での悲劇、世界遺産登録削除という2つの危機を乗り越えてもなお発展し続けるこのドレスデンが、ますます好きになってしまいました。

確かに世界遺産に登録されるということは素晴らしいことです。しかし、過剰にそれを意識したり、頼ったり、ありがたがったりせず、本来のその街や場所が持っている魅力に誇りを持ち、外的な力を借りなくても観光客を魅了することができることの方がもっと素晴らしいと思います。

こうした街や場所をもっと発見していかねば。

ドレスデン、きっとまた訪れたいです。そして次こそは例の「ヴァルトシュレスヒェン橋」をクルマで渡りたい(笑)。

参考文献:

  1. ドレスデン・エルベ渓谷, wikipedia
  2. 七澤利明、「ドイツ・エルベ川における橋の建設と世界遺産 タイトルの抹消についての調査 -世界遺産の保持、環境保全、住民投票と 建設事業に関する一連の動き-」、国土交通政策研究 第89号 http://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/kkk89.html
  3. 川口 マーン惠美、「ドレスデン逍遥―華麗な文化都市の破壊と再生の物語」
  4. Dresden Marketing GmbH, Development of Tourism in Dresden Annual Report 2012, http://mediaserver.dresden.de/
  5. Dresden Marketing GmbH, Facts and Data about Tourism in Dresden March 2015, http://mediaserver.dresden.de/
  6. eurostat, “Tourist accommodation establishment”, http://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php/Glossary:Tourist_accommodation_establishment

プロフィール

都内の会社に務める傍ら、休暇を利用して旅行をしたり音楽活動をしているビジネスマン。趣味は、旅行、音楽など。旅行はヨーロッパが中心、現地でレンタカーを借りて旅することにはまっています。フランスの最も美しい村全156箇所を完全制覇!音楽はクラシックが中心。ヴァイオリンの演奏もします。最近は健康のためにランニングを開始。マラソンも。Marathon du Médoc 2014含む数回のフルマラソンを完走しています。